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東京地方裁判所 平成7年(ワ)4696号 判決 1996年10月30日

原告

水木一智

被告

倉住八州男

主文

一  被告は、原告に対し、金四六一万一八一〇円及びこれに対する平成五年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金九〇三万七三八六円及びこれに対する平成五年一〇月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(なお、本訴請求は、損害合計一〇二八万九九三三円のうちの一部請求である。)

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  被告は、普通乗用自動車(以下「被告車」という。)を運転中、平成五年一〇月九日午前四時ころ、東京都渋谷区本町一―五七先路上(以下「本件現場」という。)において、駐車していた普通乗用自動車(以下「原告車」という。)に追突したため、原告車が前に押し出され、原告車前方に停車中のバイクに衝突した(以下「本件交通事故」という。)。

なお、本件現場は、駐車が禁止されている。

2  本件交通事故は、被告が、本件現場手前の信号機のある交差点を左折して本件現場に進入し始めた際、被告車のフロントガラスが急に曇りだしたので、被告車を走行させながら曇りを取るためエアコンのスイツチ等を慌てて操作したため原告車の発見が遅れた結果、起きたものである。

したがつて、被告は、民法七〇九条に基づき、本件交通事故による損害賠償責任を負う。

二  争点

本件は、<1>過失相殺、<2>損害が争点である。

1  原告の主張

(一) 本件現場は、駐車が禁止されているが、被告車の進行して来た方向からの見通しは良く、照明も十分であつたから、被告が、前方を注視していれば、駐車中の原告車を容易に発見できた。

したがつて、本件交通事故は、被告の過失のみにより発生したものである。

(二) 原告は、原告車の所有者であるから、本件交通事故により原告車が受けた損害の賠償を求めることができる。

そして、本件交通事故による損害は、次のとおりであり、合計一〇二八万九九三三円となる。

(1) 原告車の修理代金 二〇五万〇一三三円

甲第一号証のとおりである。

(2) 原告車の装備等の損傷

原告車の装備等の損傷による損害は、<1> SONYナビゲーシヨン NVX―1、SONY VTR SVX―20、ニシコリダイバーシテイアンテナ、SONY CDチエンジヤーCDX―A11、ナカミチカセツトデツキTD700、リズクライボーン香水、アライ四輪用ヘルメツト、サングラスが、修理不能な程度に損傷したことによる時価相当額と、アライ四輪用ヘルメツトのペイント代、右各装備等の取付工賃、ポリマーシーク加工代の合計一一二万三一一二円、<2>SONYカセツトデツキXR―747、ナシヨナルテレビの修理代金合計一万三一〇〇円との、総合計一一三万六二一二円である。

(3) 原告車の格落ち

原告は、荻野裕貴に対し、平成六年八月一九日、原告車を車両本体価格二〇〇万円で売つた。ところで、原告車と同型車両(メルセデスベンツ一九九一年式三〇〇E)の中古平均卸売価格が、平成六年において、三〇〇万円であるところ、原告車は、メルセデスベンツ一九九一年式三〇〇Eのスポーツライン車であるから、原告車の中古平均卸売価格は三三〇万円を下回らない。

したがつて、原告車の中古平均卸売価格三三〇万円と、原告車の売買価格二〇〇万円の差額一三〇万円が、原告車の格落ちによる損害である。

(4) 代車料金 三五二万二六〇〇円

原告は、平成五年一〇月一〇日から平成六年一月三一日までの一一四日間、原告車とほぼ同等の車両であるメルセデスベンツ一九九一年型三〇〇Eを代車として、一日当たり三万円で借り受けて使用した。

したがつて、代車料金は、三万円に一一四日を乗じた三四二万円に消費税一〇万二六〇〇円を加算した三五二万二六〇〇円である。

(5) 営業損失 一二七万七九八八円

原告は、有限会社エム・シー・カンパニー(以下「訴外会社」という。)の代表取締役として、主に、輸入車の販売・コーデイネイトを営んでいる。

ところで、原告車は、右業務のデモンストレーシヨン・カーとして、カーテレビ・ナビゲーシヨンシステム等を装備した車両であり、原告は、原告車を顧客に見せたり、試乗させるなどして、車両の販売・コーデイネイトの営業をしていた。しかしながら、原告は、本件交通事故により原告車をデモンストレーシヨン・カーとして使用できなくなつたため、原告の営業活動が著しく制限され、営業損失を被つた。その結果、原告が受けた営業損失は、本件事故直後二箇月間の訴外会社における売上減少金額である二一二万九九八〇円の六〇パーセントに相当する一二七万七九八八円である。

なお、原告と訴外会社は、実質的に同一であるから、訴外会社の営業損失は、原告の営業損失となる。

(6) レツカー代 三〇〇〇円

(7) 弁護士費用 一〇〇万円

2  被告の主張

(一) 本件現場は駐車が禁止されているから、本件交通事故につき原告には、少なくとも四〇パーセントの過失がある。

(二) 原告車の所有者は、原告ではなく、新日本モーター株式会社である。したがつて、原告は、本件交通事故により原告車が受けた損害の賠償を求めることができない。

また、仮に原告が本件交通事故により原告車が受けた損害の賠償を求めることができるとしても、その額は争う。

第三当裁判所の判断

一  過失相殺について

本件現場は駐車が禁止されている(前記第二の一1)上に、本件交通事故の発生が一〇月九日午前四時ころであつたため、被告車から原告車が見にくかつた可能性もあるが、原告車の駐車により本件交通事故が発生したことを認めるまでの証拠はない。

したがつて、本件現場に原告車が駐車していたことをもつて原告の過失とすることはできないのであつて、被告の主張(前記第二の二2(一))は失当である。

二  損害について

本件交通事故当時、原告車の登録事項等証明書の所有者の氏名として、新日本モーター株式会社が記載されている(乙第二号証)が、これは名義上のものにすぎず、原告が、本件交通事故当時、原告車の所有権を有していた(甲第一三号証、第一四号証、第三〇号証の一ないし三、第三一号証一〇頁ないし一二頁)。したがつて、原告は、本件交通事故により原告車が受けた損害の賠償を求めることができる。

また、SONYナビゲーシヨン NVX―1、SONY VTR SVX―20、ニシコリダイバーシテイアンテナ、SONY CDチエンジヤーCDX―A11、ナカミチカセツトデツキTD700、リズクライボーン香水、アライ四輪用ヘルメツト、サングラス、SONYカセツトデツキXR―747、ナシヨナルテレビは、本件交通事故当時、原告車に装備され、又は原告車内に存したことが認められる(甲第二三号証、第三一号証一頁ないし九頁、原告の本人調書一項・二一項・二二項・二六項)から、原告は、本件交通事故によりこれらの装備等につき受けた損害の賠償を求めることができる(ただし、アライ四輪用ヘルメツトは、後記2(四)で述べる理由で損害の賠償を求めることができない。)。

1  原告車の修理代金 二〇五万〇一三三円

原告車の修理代金が二〇五万〇一三三円であることは甲第一号証により認められる。

被告は、原告車の修理代金が一四三万二九五七円であるとする乙第三号証を提出するが、甲第一号証の作成者である松宮自動車株式会社で原告車が現実に修理されていること(原告の本人調書一五項・二一項)、甲第一号証に特段不合理な点がうかがえないこと、乙第三号証記載の修理代金が甲第一号証記載の修理代金より合理的であるとするには、被告提出の乙第四号証では不十分であることからすれば、乙第三号証は直ちには採用できない。

2  原告車の装備等の損傷 八六万〇八七七円

(一) SONYナビゲーシヨン NVX―1は、平成四年九月一八日に二三万三〇〇〇円で購入して、原告車に装備する前は他車に装備し、その後に原告車に装備していたが、本件交通事故により修理不能となつた(甲第三号証、第一五号証の一、第三一号証一頁・二頁、原告の本人調書四八項ないし五二項)。

したがつて、平成四年九月一八日(購入日)から平成五年一〇月九日(本件交通事故日)までの時の経過を考慮すると、SONYナビゲーシヨン NVX―1は、本件交通事故当時、次の数式のとおり、一九万一〇六〇円であつたと考えられる。

233,000-233,000×0.9×0.2=191,060

(二) SONY VTR SVX―20、ニシコリダイバーシテイアンテナ(四本購入で、一本四〇〇〇円である。なお、本件交通事故により損傷したのが二本であることは、原告の本人調書五五項のとおりである。)、SONY CDチエンジヤーCDX―A11は、平成五年六月四日に合計一三万六五七八円で購入して、原告車に装備していたが、本件交通事故により修理不能となつた(甲第二号証、第四号証、第五号証、第一五号証の二、第三一号証三頁ないし五頁、原告の本人調書五三項ないし五六項)。

したがつて、平成五年六月四日(購入日)から同年一〇月九日(本件交通事故日)までの時の経過を考慮すると、SONY VTR SVX―20、ニシコリダイバーシテイアンテナ、SONY CDチエンジヤーCDX―A11は、本件交通事故当時、次の数式のとおり、一二万〇六三七円である(なお、ニシコリダイバーシテイアンテナ二本は、損傷していないから、その分の代金八二四〇円を一三万六五七八円から控除する。)。

(136,578-8,240)-(136,578-8,240)×0.9×0.2×4/12=120,637

(三) ナカミチカセツトデツキTD700(二八万八〇〇〇円)、リズクライボーン香水(二万八〇〇〇円)は、本件交通事故当時、原告車内に存したが、本件交通事故により、ナカミチカセツトデツキTD700が修理不能となり、リズクライボーン香水が消失した(甲第二号証、第二八号証、第三一号証五頁・六頁、原告の本人調書五六項・五八項)。

したがつて、ナカミチカセツトデツキTD700の損害は二八万八〇〇〇円、リズクライボーン香水の損害は二万八〇〇〇円である。

(四) アライ四輪用ヘルメツトは、平成五年七月ころに、九万二〇〇〇円で購入し、その際に三万円でペイントをしてもらつたものであり、本件交通事故当時、原告車内に存したが、本件交通事故により修復不能となつた(甲第二号証、第三一号証六頁、原告の本人調書五九項・六二項・七〇項)。

しかしながら、アライ四輪用ヘルメツトは、訴外会社の所有物であり、訴外会社の資産として帳簿等に記載されているものである(原告の本人調書六三項・七一項・七二項)から、原告が、その損害賠償を求めることはできない(そのペイント代も同様である。)。

なお、原告と訴外会社が実質的に同一といえないことは、後記5で述べるとおりである。

(五) 装備等取付工賃(二〇万円)は、平成五年六月四日、SONYナビゲーシヨン NVX―1、SONY VTR SVX―20、ニシコリダイバーシテイアンテナ、SONY CDチエンジヤーCDX―A11、SONYカセツトデツキXR―747、ナシヨナルテレビを原告車に取り付けた際の費用であり(甲第二号証、第三一号証六頁・七頁)、本来的には右各装備の価値の一部を構成するものであるから、右各装備の価値を考える際に考慮すべきものであるが、便宜上ここでその価値を判断する。

すなわち、装備等取付工賃に係る価値は、本件交通事故当時、平成五年六月四日から同年一〇月九日(本件交通事故日)までの時の経過を考慮すると、次の数式のとおり、一八万八〇〇〇円となる。

200,000-200,000×0.9×0.2×4/12=188,000

(六) ポリマーシーク加工(三万〇九〇〇円)は、平成五年八月ころ、原告車に施した費用であり(甲第二号証、第三一号証七頁、原告の本人調書六〇項)、本来的には原告車の価値の一部を構成するものであるが、便宜上ここでその価値を判断する。

すなわち、ポリマーシーク加工に係る価値は、本件交通事故当時、平成五年八月から同年一〇月九日(本件交通事故日)までの時の経過を考慮すると、次の数式のとおり、三万〇一三〇円である。

30,900-30,900×0.9×0.166×2/12=30,130

(七) サングラス(三九〇〇円)は、平成五年七月ころ、購入し、本件交通事故により修復不能となつた(甲第二号証、第三一号証七頁・八頁、原告の本人調書六一項・六四項・六五項)。

そして、サングラスは、平成五年七月から同年一〇月九日までの時の経過を考慮すると、一九五〇円とするのが相当である。

(八) SONY カセツトデツキ XR―747、ナシヨナルテレビは、本件交通事故当時、原告車に装備されていたが、本件交通事故により損傷をうけた。その修理代金は、合計一万三一〇〇円である。

(以上、甲第六号証、第七号証、第三一号証八頁・九頁)

3  原告車の格落ち 〇円

訴外会社は、荻野裕貴に対し、平成六年八月一九日、「事故歴、修復歴有りの為業販現状渡しとする。」として、車両本体価格二〇〇万円で原告車を売った(甲第二五号証、第三一号証一二頁ないし一四頁)。訴外会社の右売買が原告の売買と同視できるかはさておき、本件交通事故が存したことだけで原告車の車両本体価格が二〇〇万円とされたと認めるまでの証拠はない。

したがつて、原告車の車両本体価格が二〇〇万円とされたことがすべて本件交通事故によるとの前提に基づく、原告車の格落ちについての原告の主張は失当である。

4  代車料金 一二九万七八〇〇円

(一) メルセデスベンツ一九九一年型三〇〇Eの代車料金は、一日当たり三万円であつた(甲第一一号証の一ないし四、第一六号証三頁)。

ところで、原告は、本件交通事故当時、新日本モーター株式会社の契約社員として輸入車を販売する一方で、訴外会社の代表取締役として輸入車のコーデイネートもし、希望者を原告車に乗せて販売等の営業を行つていた(甲第一六号証一頁・二頁、原告の本人調書二七項ないし四〇項・五七項・六六項・七五項)。

たしかに、原告車は、輸入車のコーデイネートという訴外会社の業務のためナビゲーター、テレビなどを特別に装備していた(原告の本人調書二七項・三一項・五七項・七五項)が、代車であるメルセデスベンツ一九九一年型三〇〇Eには右のような特別な装備を施していなかつた(甲第一六号証二頁)のであるから、訴外会社の業務としては右代車を使用する必要性はない。

しかしながら、原告は、新日本モーター株式会社の契約社員として輸入車を販売する際、希望者を原告車に乗せて販売の営業を行つていたのであるから、新日本モーター株式会社の業務としては代車であるメルセデスベンツ一九九一年型三〇〇Eの使用の必要性は認められる。

(二) また、原告は、平成五年一〇月一〇日から平成六年一月三一日の一一四日間、代車を使用した(甲第一一号証の一ないし四、第一六号証三頁)。

しかしながら、代車の使用開始日である平成五年一〇月一〇日から、原告車の修理に係る見積り(松宮自動車株式会社作成。甲第一号証)ができた平成五年一二月二〇日ころまでの間は、原告車が修理可能であるか否かなどといつた、原告と被告の保険会社の話合いがあつたり、原告車の修理を行うはずの松宮自動車株式会社に手違いがあつたため、原告車の修理が行われておらず(原告の本人調書一五項ないし二〇項)、したがつて、右期間は、本件交通事故と相当因果関係のある代車使用期間とはいえない。

それゆえ、原告が代車を使用した平成五年一〇月一〇日から平成六年一月三一日のうち、見積りができた平成五年一二月二一日から平成六年一月三一日までの期間(四二日間)が修理に必要な期間であり、本件交通事故と相当因果関係のある代車使用期間である。

なお、原告車の修理期間は、通常の場合に比べて長いが、原告車の修理箇所が多いこと(甲第一号証、原告の本人調書八項ないし一四項)、年末年始の休みを挟んでいること、右期間が修理期間として相当でないことをうかがわせる証拠がないことから、右期間を修理に必要な期間とする。

(三) そうすると、代車料金は、三万円に四二日間を乗じた一二六万円に消費税を加算した一二九万七八〇〇円となる。

5  営業損失 〇円

原告は、本件交通事故により原告車が修理せざるを得なくなり、その間、原告車を使用できなかつたことによる訴外会社の売上げの減少が原告の営業損失であると主張する(前記第二の二1(二)(5))。

しかしながら、訴外会社の売上げの減少が、訴外会社と別人格である原告の営業損失となることはない上に、訴外会社の売上げはレースに関するものが中心であり、また、訴外会社は、部品の輸入や日本独自のコンピユーターシステムを一般車に導入することも行つていること(原告の本人調書三五項・七四項)から、本件交通事故後の訴外会社の売上げの減少が、すべて本件交通事故によるものとはいえないことからすると、本件交通事故により原告に営業損失が生じたとはいえない。

また、原告は、原告と訴外会社が実質的に同一であるとも主張するが、訴外会社は、設立登記もされ、法人税確定申告もしており(甲第二一号証、乙第六号証)、また、訴外会社の決算も、各月別に、各勘定ごとにきちんとされている(甲第一七号証)から、原告と訴外会社は別人格であり、原告と訴外会社は実質的に同一とはいえない。

したがつて、営業損失についての原告の主張は失当である。

6  レツカー代 三〇〇〇円

弁論の全趣旨により認められる(なお、本件交通事故後原告車を運ぶためにレツカー車を使用したことは原告の本人調書一五項のとおりである。)。

7  弁護士費用 四〇万円

本件における認容額、訴訟の経過等を斟酌すると弁護士費用は四〇万円が相当である。

三  結論

よつて、原告の請求は、金四六一万一八一〇円及びこれに対する平成五年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限りで理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原洋三)

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